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西インターに向かって車を走らせていたお昼時

前から気になっていたお店が目に留まった。

通りから見えるのは居心地の良さそうなソファやテーブル。

きっとカフェのようなところだろう。

おいしいランチもあるに違いない。

 

ボタンがアクセントになったスリッパに履き替え

逸る気持ちをおさえながら、そおっとドアを開ける。

 

『いらっしゃいませ!』

と多少はにかみの交じった笑顔で迎えてくれたのは

まだ中学生か高校生くらいのかわいい女の子。

きっと、このお店の大切なお嬢さんなのだろう。

グラスやお皿をていねいに拭いている姿がなんとも初々しい。

思わず、東京に残してきた一人娘のことを思い出し

ほろ苦いせつなさが込み上げてきた。

 

『父さん、家を出て行かなきゃいけなくなったんだ』

と告げたとき、娘のほほを伝った一筋の涙。

あの光景は今も忘れることができない。

 

『お待たせしました』

目の前に小皿や小鉢が所狭しと並んだプレートが現れた。

新鮮な野菜とハーブの効いた鶏肉のソテーが食欲をそそるランチ。

時間をかけて、ひとつひとつの料理をかみしめるように味わううちに

あわだった心も、少し落ち着いてきた。

 

ゆっくりと食後のコーヒーを楽しんでいると

『このお店、ハーブティーが有名なのよ』

という話声が耳に飛び込んできた。

 

よし!今度、娘に会うときには、

彼女の大好きなモンブランのショートケーキと一緒に

ハーブティーでもふるまってやろうかな

なんて、柄にもないことを想像して一人ほくそ笑んだ。

 

story by まつぼっくり