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心待ちにしていた返事は、「不採用」だった。

 

「わたし、向いてないのかな」

心の中で独りごちながら、運ばれてきたコーヒーを手に取る。

思ったよりショックが大きかったようで

うっかり砂糖を入れすぎてしまった。

 

写真を撮りたい。

そう思ったのは、何年も前の恋がきっかけだった。

美しい写真を撮る人だった。

彼の写真は、心を写す。そう思った。

尊敬の念と、恋心を取り違えたのだろうか。

わたしは彼に夢中になり、

そして自然とカメラを持つようになった。

その恋はとうの昔に終わりを告げたけれど

写真への熱だけは冷めぬまま、今もくすぶり続けている。

 

隣のテーブルでは、同じくらいの年の女の子が

友達とにぎやかに話し込んでいた。

OLさんだろう。オフィスに着ていく服の話、

イケメン同僚の話、とても楽しげで輝いて見えて

中途半端な自分がとても惨めな気がした。

やっと見つけたアシスタントの採用にも落ちたのだ。

わたしもどこかにお勤めして、誰かと結婚をし、

平凡で幸せな家庭で、子供の写真を撮って。。

それで、いいのかもしれない。

そんなことを思ってしまう自分もまた情けなくて

小さく首を振りながら、席を立った。

 

ふと見下ろしたマグの中に、ハートが浮かんでいた。

溶け残った砂糖とコーヒーが、偶然作った模様だ。

とっさに鞄からカメラを取り出し、何度もシャッターを切った。

こんなところにハートが!撮らなきゃ!

 

気づけば、隣の彼女が怪訝な顔でわたしを見ていた。

なぜだか可笑しくなって、慌ててレジに向かう。

 

ああ、やっぱりわたしは写真が好きなのだ。

ならばもう、気のすむまでやってみよう。

その先できっと、またハートの浮かぶ写真を撮れるはずだから。