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あの日の夕飯も、ハンバーグだった。

僕の家は共働きで、母はとても忙しい人だった。
少年野球に入りたいと言ったとき、母は当初、猛反対をした。
練習の付き添いや遠征も多いチームで
毎晩遅くまで仕事をし、土日だって休みの少なかった母に
負担が大きかったのだろう。
それでも、しつこく食い下がる僕に根負けして
入団を許してくれた。

あの日は、小雨の混じる秋の終わりだった。

僕らの代の卒業試合。
9回裏ツーアウト満塁、二点差で追う僕らの攻撃。
ドラマのような展開で、最後の打席が僕に回ってきた。
ここで打てば、サヨナラ勝ち。
チームメイトの声援が、いやに大きく聞こえる。
震えるバットを必死で握りしめ、手に強く力をこめた。
雨に煙るグラウンドの匂いを、鮮明に覚えている。

帰りは、一言も口をきかなかった。
家につくなり、自室にこもった。
台所から届く、ご飯の匂い。ハンバーグは好物だ。
空腹に耐えかねて、食卓についた。
並べられた皿に手を伸ばす。
美味かった。
こぼれだした涙に、悔しさが滲んで溶けた。

大人になって僕も少しは料理をするようになり
ハンバーグというものが、意外と手間のかかるものだと

うことを知った。
一日、試合に付き合った後
それを準備するのは楽ではなかっただろう。

今ここにある、母の味によく似たハンバーグを食べながら
あの日バッターボックスまで届いた母の声援を
僕はまた、はっきりと思い出していた。